心温まる、おとなのお伽話

演出/さとう としかつ

 「煙が目にしみる」は、昨年上演した「見果てぬ夢」と同じ、堤泰之氏の脚本です。
「見果てぬ夢」は、東京近郊にある総合病院の裏庭が舞台でした。
連日満員御礼、会場は泣き笑いの渦で包まれ、大変に好評でした。
夢を追い求める物語に共感があったからだと思っています。

 今回のお芝居は、関東近郊(私達は西多摩に設定)の火葬場を舞台とした物語です。
火葬場とは、家族や関係者が故人と別れる人生最後の舞台ともいえます。
葬式を題材としたお話は、小説・映画・演劇など、いろんな手法で描かれています。
人間模様を描くには、かかせない題材であるからなのでしょう。
この作品では、独自の見事な手腕で、火葬場での出来事を面白おかしく、そして感動的に描いてあります。
「火葬場を面白おかしくなんて不謹慎」と、思われるかもしれませんが・・・不真面目な作品ではありません。
「人間」に対する優しさと暖かさ、そしてロマンが舞台をしっかりと包み込んでいます。

 ストーリーの面白さに欠かせない為には、「意外性」が重要です。
この作品には、その意外性があふれにあふれています。
端的なのが、今ここで火葬されようとする二人の故人が、ところ狭しと舞台に出没する事です。
だからといって、おどろおどろしい訳ではありません。ユーモアたっぷり、笑わせてくれます。
さらにさらに意外なのは、故人の母である、おばあちゃんがその二人と会話が成立してしまうのです。
けっしてイタコなどの霊的現象ではなく、ごくごく普通になのです。
そのスーパーマンの様なおばあちゃんが、あの世とこの世をとりもつ事によって、家族や恋人などお互いの思いが伝わり、誤解が解け、生前に果たせなかった事が成しえるのです。
葬式という現実的なお話と、お伽噺の様な非現実が重なり展開していきます。
いろんな思いの中に、散りばめられた素敵さを・・・皆さんに伝えたいと思っています。

 ラストでは、火葬場に集ったみんなが(故人も?)一緒になって記念写真を撮ります。そこで語られるのが、蝶のエピソードです。
これは本当の話・・・インドネシアのスラウェシ島に「蝶の谷」と呼ばれる場所がり、そこには種類の違う様々な蝶が集まってくるそうです。
いろいろな人間とのつながりの不思議さと感動を表現した、爽やかなその場面を楽しみにして下さい。

 俳優を目指し上京し、演劇の専門学校で学びながら劇団「ひの」に関わっている一人の青年。
高校生の役をダブルキャストで演じる中学生。その他は、「ひの」のべテランの役者が勢ぞろい。
13人、それぞれの持ち味を生かして個性豊かに演じます。
上演時間は約1時間30分。21世紀も間もなく3年目を迎えますが、ますます厳しくなる現実です。
こんな空気の中、憩いの水を求めて羽を休める蝶のように、ほのぼのとした心地で一時舞台を楽しんで下さい。
明日への活力になれるような舞台を目指し、みんなで創意工夫をしながらけいこ取り組んでいます。

 皆様のご来場を、心からお待ちしております。