今この時代に届けたい

演出:さとうとしかつ

 壺井栄、不朽の名作「二十四の瞳」。美しい小豆島を背景に、大石先生と12人の子どもたちが織りなす感動的な物語です。この物語はまた、大石先生が岬の分教場に赴任した1928年(昭和3年)6月に治安維持法改定、1931年満州事変、32年上海事件、33年国際連盟脱退と、15年戦争の泥沼へと押し進んだ、怒涛の昭和史そのものでもあります。はじめて教壇に立った大石先生は、12人の子どもたちの個性の輝きをみて「この瞳をどうしてにごしてよいものか」と誓います。しかし歴史は、子どもたちを悲惨な時代へとのみこんでいき、戦争と軍国主義と世界大恐慌の嵐は、瀬戸内海の平和な島の教室と生活の中まで入りこむのです。

 貧しさのため身売りされる女の子、軍人を夢見る男の子、学びたいのに学べない子、非国民と後ろ指をさされ自由にものが言えない暮らし、戦死して靖国の母になることを名誉とする教え。大石先生は、国定教科書にしばられ、お国のため天皇のためと忠君愛国を教えこむ教育がいやになり教壇をおります。どれも許すことのできない出来事です。何故そのような道を歩まなければならなかったのかを、子どもたちや庶民の立場からあくまでも静かに、しかし迫真をもってなげかけています。

 10月28日、自民党の新憲法起草委員会が新憲法草案を決定。9条の戦力不保持を定めた2項を削除し「自衛軍」の保持を明記、今の憲法が禁止する集団的自衛権を認め、海外で武力を使えるようになります。翌日、日米両政府は日米安全保障協議委員会で、在日米軍再編の中間報告を合意。協同司令部の新設・基地の協同使用など、自衛隊が米軍を「補完」する事を強調する内容になっています。君が代が強要され、教育基本法も改悪されようとしています。日本はいったいどうなるのでしょう、子どもたちの未来は。いつなんどき、狂気の沙汰がおこりかねない状況です。こんな時代だからこそ、この作品から多くを学び、過ちを二度と繰り返さないためのメッセージをしたいと思っています。

 劇団では1975年と1983年に上演、22年ぶりの再演となります。この大作の上演に踏み切れたのは、浅川少年少女合唱団の協力が得られたからです。唱歌を澄んだ声で歌ってくれます。その合唱団員26人、準劇団員(5才〜中2)12人、劇団員19人。総勢57人の出演者が18年間の歳月を描きます。体験したことがない多くの事柄を創造しながら、心にひびく芝居を上演したいと日夜励んでいます。
ぜひ、ご来場下さい。