知恵と心と勇気と家族、そして夢     演出/さとう としかつ

大好評だった「オズ」の初演

「オズの魔法使い」は、10年振りの再演となります。初演は1996年です。
公演は大好評で、当時としては珍しく立見のステージもあり、4ステージのうち3ステージが満席となりました。いかに人気のある作品であるかの表れでした。
子どもたちの反応もよく、舞台と客席が共有し一喜一憂という感じでした。
「3才の子どもと観ました。難しいかなと思いましたが、とても楽しんで、時には思わず声が出てしまいました」「とても楽しかった! 心から感動しました」
「子どもたちに安心して観せてあげられる良い劇だと思いました」など、沢山のアンケートが寄せられました。
とっても面白く、子どもも大人も、心を惹きつけられるお話なのです。

おとぎの国「オズ」の魅力

オズは、100年前に書かれたファンタジーの世界。
アクションものでもなく、殺し合いも、悪夢もありません。
全体的におおらかでのんびりしており、現代のテンポとは違った、一昔前の作風です。
といっても、発想や着想が古臭い訳ではなく斬新なアイデアにあふれており、奇想天外な出来事が次々と起こります。
登場人物もユーモラスで、ストーリーもテーマも機知に富んでいるのです。

体が藁でできている「かかし」は脳みそ(知恵)を、体が空洞のブリキの「きこり」は心臓(愛する心)を、臆病なライオンは勇気を、ドロシーは家族のもとへの帰郷を願い、オズ大王に会うためにエメラルドの都を目指して冒険の旅をします。
知恵が心が勇気が家族がないことより、逆にそれらがいかに大切なものかが浮き彫りにされます。
面白いのは、困った時に一番考え、結果的に知恵をだすのが『知恵がない』と考えている「かかし」であり、一番感受性が高く、一番優しい心の持ち主が『心がない』と穀qいているブリキの「きこり」であり、困難や危険な目にあった時に一番勇気を出すのが『憶病だ』と思っている「ライオン」なのです(臆病なものが勇敢でないとは限りません)。
ここは人生哲学が散りばめられています。
自分探し・アイデンティティー(自我)を確立していく物語ともいえます。

夢や願いを真剣に追い求めるからこそ、夢や願いは叶う。誰にでも可能性があるのです。また、四人が力を合わせるからこそ願いが実現します。
知恵・心・勇気は、どう使うべきか・・・等、人生の知恵がちっとも説教臭くなくさらりと巧みに描かれており、作品の魅力をささえる隠し味となっています。
家族に会いたかったドロシーの落ちが足元にあった事、大魔法使いだと思われていたオズ大王が、実はペテン師だったというどんでん返し、ちょっぴり風刺も効いており大人が楽しめるところも多々あります。

この時代に夢や希望を与えたい

現代、子どもたちを(大人も)取り巻く状況はけっして伸びやかとはいえません。
つい最近も、岐阜県中津川のパチンコ店空き店鋪で中学二年の少女が殺害されました。
子どもがビルから突き落とされたり、通学途上や学校や家庭でのさまざまな事件、病んだ社会を憂慮していたのですが、岐阜の事件は少年の犯行でした。
社会の犠牲となって苦しみ悶えている子どもたち。子どもたちが被害者や加害者になったり、信じがたい出来事が後を絶ちません。

けいこが終わり夜中にテレビをつけたら偶然、「夜回り先生」こと水谷修さんの特集番組を放映していました。
昼間の世界に夢を失った子どもたちが、夜の世界に夢を求めて彷徨います。
夜の街に逃げ込む又は家の中に引きこもってしまう子どもたち。
シンナーや薬物に溺れ、リストカットで苦しむ子どもたちに命を張って挑むその心優しい姿は壮絶でした。
水谷さんの著書の中に、こんな一説があります。家庭の事情で家を出され、深夜2時すぎに公園でブランコに乗っていた中学生の少女のつぶやきです。
「ブランコっていいよね。明日に連れていってくれる気がする。結局は元の場所に戻っちゃうけど・・・だからいっぱい漕ぐんだ」悲しみを背負ったこの少女が目を輝かせて語ったそうです。

子どもたちは、この時代の空気を敏感に感じています。
夢を抱きずらい社会になってしまいました。
こんな状況の中、子どもたちの心を伸び伸びとさせ、夢のあるお話を上演したい。
楽しい芝居を子どもたちに届け、子どもという種子が芽をだし、すくすくと育って欲しい。
夢と希望を与え活力となれる作品としたい、こんな思いを込めて作品づくりに挑んでいます。

「オズ」再演にむけて

再演にあたり、脚本の構成と台詞を練り直し、歌の追加、音楽も全曲アレンジしました。
前回作「二十四の瞳」に出演した子どもたちが残った事もあり、子どもの役を加えました。
子どもの役といっても子どもを演じるのではなく、大人や猿などを演じます。おとぎの国だからこそ可能な配役です。
子どもたちの純粋な演技は魅力的ですので、ご期待下さい。
十年一昔といいますが、当時の役者は現在3人だけ、殆どが入れ替わります。衣装も新しいデザイナーにより全て作り直します。
再演では、前回の経験を生かせるし、以前できなかった事を深められます。
新生「オズ」を創るために工夫をこらしています。
22人の役者が43役を、歌やダンスを織り交ぜながら楽しく演じます。
(財)交流センターの助成を得る関係で他市での上演が必要なため近隣の八王子を選びました。
「夏の夜の夢」「二十四の瞳」に続く三回目のいちょうホールでの取組み。
先行、日野七生公会堂で上演します。

夢あふれるオズの世界に、是非ご来場下さい。