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いのちの輝き     演出/佐藤利勝
ブンナは、2004年6月に劇団「ひの」第71回公演として上演しました。
当時、長崎で12才の少年が幼児をビルから突き落として殺害した「駿(しゅん)ちゃん事件」や、佐世保で6年生の少女が同級生を校内で殺害するなど、衝撃的な少年犯罪が次々と起こっていました。
それらの出来事に心を痛め、いのちをテーマとしたこの作品の上演に踏み切りました。
残念ながら事態は治まっておらず、むしろ深刻化しており、そこで再びこの作品に挑むことにしました。
この文章を書いていた5月5日子どもの日の直前、愛知で高校1年の15才の女子生徒が殺害されたニュースが飛び込んできました。
GW明けの7日にも、京都で府立高定時制1年の女子生徒15才が殺害されたニュース。
たて続けに若い命が無残にも奪われ、無念でなりません。
ネット犯罪の横行、家庭内での殺人や虐待。裏サイトや携帯による言葉の暴力や陰湿ないじめからの自殺。
不登校、ひきこもり、リストカット、ドラッグなどに追い込まれる子どもたちも増えつづけています。
人間関係の孤立化・希薄化、個人の問題だけにとどまらない社会的な病理を内包していますが、別の背景としていのちや生きることの尊さについて、希薄になっているように思えてなりません。
ブンナは、これらの問題に一石を投じる作品です。
冒険好きのトノサマ蛙ブンナが、ヘビなどの天敵におびえたり、地べたをはいずりまわる暮らしが嫌になり、大空に憧れ、別天地を求めて椎の木に登ります。
しかし、椎の木のてっぺんは、鳶に捕らえられた生き物たちが一時置いておかれる修羅場ともいえる場所だったのです。
死に直面する緊張した状況の中、生きることを必死に求め、自分をむきだしにし、いのちごいをしたり、裏切ったり、後悔したり、懺悔したり、母親や子どものことに思いをめぐらしたり・・・トビに捕らえられた、スズメ、モズ、ネズミ、ヘビ、ウシガエル、ツグミなどの生き物の壮絶なドラマが生死を通じて繰り広げられるのです。
生き物の姿を通してですが、私達の人生の中で、起こり得る深いテーマ、人生の哲学を内包した、生命力と迫力を持った物語です。
初演時は「生」を主軸として描きました。 再演にあたり「死」につても視点を向け、両面から「いのち」についてメッセージをしたいと思っています。
原作者の水上勉氏が「子どもにうかつに浅いことを語るよりも、自分の信念みたいなもの・・・必死なものを差しださない限り駄目なんだという思いがある」との言葉を残されています。
ブンナにはその必死なものが強く感じられます。
いのちの大切さについて学ぶには、痛みや悲しみを知る事と、感動し喜びを感じる事が必要です。 ブンナはその両方をそなえている作品であり、心に迫る場面が沢山あります。
椎の木での体験により成長するブンナは、今を生きる子どもたち、私たち大人にも重ねることができると思います。
ブンナが語る・・・恐ろしく、悲しく、美しい出来事
感動の名作、ブンナ・・・是非、ご来場下さい。
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