劇団「ひの」 もどる

朝焼けが、二人を静かに染めてゆく

演出/佐藤利勝

新年あけましておめでとうございます。昨年は「ブンナよ木からおりてこい」の観劇、「新けいこ場建設」へのご協力など大変お世話になりました。おかげ様で「ブンナ」は、沢山の観客を得、公演を通じて多くの募金も集まりました。念願の夢だった「新けいこ場」が、ついに8月に完成、9月15日には「おひろめパーティー」を開催し、100名以上の方々と喜びを分かち合い、劇団への期待や願いが寄せられ感無量でした。この場をお借りし、あらためてお礼申し上げます。皆さま、本当にありがとうございました。

木の香りが漂う新たな空間で、8月下旬から「ジプシー」の上演に向けて活動をはじめました。旧けいこ場は20畳でしたが、倍の40畳あり、事務所も台所も広く、2階の第2けいこ場&倉庫も充実し機能的です。気持ちまで、伸び伸びと活動できており、幸せ一杯です。昨年11月に装置・衣裳・道具が完成、以前は作業場所が狭くひしめいていましたが、工房の様にゆったりと取組むことができました。12月には、プログラムが可能な照明設備の設営が終わり、音響も充実させました。1月には観客席を作成しています。どれも劇団員で取組み、皆さまに満足していただける、ゆとりある空間作りを目指しています。

「ジプシー」は15年振りの再演、私にとって2度目の演出となります。創立20周年記念公演として上演し大好評でした。楽しく明るく分かり易く、そんな中にも大切な言葉や心を洗われる生き方が示唆されています。また、若者が多い現在の劇団にもふさわしいと判断し、お披露目公演として上演に踏み切りました。4千万もする高額のマンションを購入した二人(夫婦)が、建築中の自分達の部屋を夜中に覗きに来た所から物語りが始まります。そこへ流浪の民(家族)が住みつくというファンタジーともいえるお芝居です。朝焼けが、若い二人を静かに美しく染めてゆくなかドラマは閉じるのです。作品が書かれた時代とは、働くことや暮らすこと、住まいすら危ぶまれる現代と状況がかなり違っています。しかし、こんな不安で苦しい時代だからこそ、大切にしなくてはならない、忘れてはならない事が散りばめられたこの物語を豊かに描きたいと思っています。 

お披露目公演にふさわしい作品となれるように、3人の新人を交え劇団員一同、日夜けいこに励んでいます。ラストシーンで、ジプシーの一人である、タマキという乳飲み子を育てている母親が「思い出がたくさん眠っているところには、思い出になるようなことがたくさん起きます・・・」と、別れの言葉を告げます。劇団のけいこ場がそのような言葉として響き合える事を願ってやみません。

新しい空間への、皆さまのご来場を心からお待ちしています。