闇に照射する

演出/佐藤利勝

 この時代に「弾け、ほとばしる」ドラマを創りたい・・・と思いめぐらしている時に目にとまったのが、「新羅生門」でした。新けいこ場のお披露目として2009年2月に上演した「ジプシー」と同じ、横内謙介さんの作品です。1988年に扉座で初演、横内さんが27才の時だけあって、若々しく弾けたドラマです。若さに満ち溢れ、熱い思いが煮えたぎった作品と受け止めました。

 「羅生門」と聞くと芥川龍之介や黒澤明監督の作品を描かれると思いますが、それらの筋をなぞった物語ではありません。しかし、荒れ果てた平安時代の京、羅生門に鬼が出没したことや、鬼の表現、人間の闇の探究などの設定は類似していると思います。「新」羅生門の時は"現代"取り壊されていく都市の中の古い家屋に幻のように現われた"鬼"と"鬼退治"の人物たちが、登場して「鬼」とはなんであるかを正面からえぐっていくからです。

 鬼について調べ驚きました・・・公演の時期は節分にあたりますが、その風習が「鬼門」と関係する事や地方によっては、鬼は神であり『鬼は内』と唱える事。「鬼が笑う」「鬼に金棒」など、鬼にまつわる諺の数々。「なまはげ」など日本各地にある鬼の行事、「鬼ごっこ」などの遊び、そして「蝦夷(えみし)」として差別された歴史。鬼の本や研究書も多様で有り・・・私たちの暮らしや文化に根強く関わっていたからです。ここのところ劇団では、希望や夢にストレートに向かった作品に取組んできました。しかし、今回の作品は志向が違い、人間の闇の部分に触れ照射しあぶり出す作品です。自分の心のなかにやどる鬼、まわりから押しつけられる作られた鬼、権力や地位を与えられた事により変貌する鬼、など、さまざまな観点から捉えることが可能です。その「鬼」を現代のテーマとしてひきつけ、メッセージできる芝居としたいと思っています。

 先日、書棚から若い時(20代)に書いた日記を偶然手に取りました。社会への怒りや希望や理想、自分への悩みや生き方の葛藤などにあふれていました。今一度、その若さを今回の舞台にぶっつけ、熱い芝居を創りたいと思っています。諸事情があり劇団員の入れ替わりがありました。最高でも5年、ほとんどの人が1~3年の劇団歴です。幸いにも67才の人生経験豊かな方と、30代の活発な女性が入団。中学1年生の準劇団員一人、合計12人が日夜、真剣にけいこに挑んでいます。新けいこ場での3回目の公演・・・今回は殺陣もあり、あらたなチャレンジです。さあ~どんな騒動になるのやら、どんな台詞が飛び交うやら・・・工夫を凝らした舞台空間へ、是非、足をお運びください。

 劇団「ひの」初春公演、ご来場をお待ちしています。

けいこの様子