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劇団「ひの」 84回公演
キャスト&スタッフ

現代にひびく民話の再創造

演出/佐藤利勝
昨年の暮れ、書店にて・・・龍の背中に凛々しくまたがった少年の表紙に惹かれ本を手にしました。
読んで驚いたのは、おおらかで、スケールが大きく感動的で、しかも現代に通じる物語だったことです。
怠け者だった太郎が、龍になった母を訪ね北へ北へ向います。
その旅の中で、百姓たちの暮らしの厳しさや願いを見聞きし、オニや貪欲な長者の醜さとふれ、豊かな村があることも知り、色んな体験をしていきます。
貧しさ故に掟をやぶった告白・・・龍が延々と語るモノローグは胸をうちます。
そして、太郎と龍たちは懸命に山を切り崩し、豊かな土地を切り開くのです。
農業を取巻く問題、深刻な格差や貧困の事態、震災や原発の被害など、暮らしや社会の仕組みを見直さなければならない、日本の現状と重なりました。
この作品は、信州に残る小泉小太郎伝説の断片を集め、それに秋田にある小太郎伝説や八郎潟の民間伝承などを加え、さらに日本各地に伝わる多くの昔話などが組み合わされています。小泉小太郎伝説は水害との闘いであり、龍は水の神様でもあります。
松谷さんは、1952年頃に発足した「民話の会」に関わり、民話採訪の旅をされたそうです。
初版のあと書きに「私は先祖たちが残していたものを埋もれさせてはいけないと思いました。
細切れになっている無数の小さなはなし、その中から力強いものをつかみだし、日本の土の中から生まれた、いきいきとした民話の主人公をかたちづくりたい。そして日本の子どもたちに読んでもらいたいと思いました。」と、あります。
1960年代、新しい時代への可能性を受けてエネルギッシュに書かれたのではないでしょうか。
しかも、乳飲み子を片手にしながら執筆されたそうで、愛情や母性、ヒューマニズムに溢れています。
それらの積み上げにより、この作品が生まれたのだと思います。
幸い、今回は二つの友情出演が実現しました。
一つは、日野高校 映画演劇部の2人。山の人や村人の役、舞台転換、龍の操作など、真摯に取組んでくれています。
もう一つは、民舞サークル「栓貫」の方々。
3年前に上演した「太陽の子」で沖縄の唄を指導していただいた事があり、今回は祭りのシーンで太鼓や笛により舞台を華やかにしていただきます。
原作は「そして、ばあさまや、じいさまや、村の人たちも呼び集め、みんな楽しく、幸せにくらしたということです」と言う言葉でむすばれています。
現実にすることはたやすくありませんが、そんな世の中になることを願い、劇団員・準劇団員・スタッフとともに、世代をこえ力を合わせ・・・現代に響く作品となれる様に創造に挑んでいます。
「かもめ・・・」以来、2年ぶりの劇場公演。
久しぶりに大きな舞台で表現する事になります。諸事情があり八王子だけとなってしまいました。
足を運んでいただくのにご不便をおかけして申し訳ございませんが、龍とともに皆様のご来場を心からお待ちしております。