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今月のクローズアップ
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[2008年9月]
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小林將夫さん

□設計波瀾万丈

ご本人の写真 あれは3年前のこと、劇団ひのの「新けいこ場」建設の相談にのって欲しいという旧友K氏に案内され、私はスーパーアルプスに隣接した旧けいこ場に恐る恐る足を踏み入れたのでした。

劇団のけいこ場というと演劇人達の巣窟、夜ごと暗く重く熱く演劇を語り、日夜赤目で演劇論を交わしているイメージがあるので(実際交わしているのでしょうが・・)、入るやいなや「君は昨今の演劇の状況をどう思う?」などと言うことを聞かれ、そこで的はずれな答えでもしようものなら鍋・釜・椅子・台本・子役などが四方八方から飛んでくるのではないかと身構えたのですが、そこにいらした団員の皆さんは「ようこそ〜」と気さくに迎えていただき、灰皿の一つも飛ぶことなく正直かなりホッとしたのでした。
佐藤さんとお会いすると「まずは握手をしましょう・・(握手)いいんですよ」(よくよく聞けば委員ですよ〜に掛けていた)。 旧けいこ場 気がつけば初めましての挨拶から数分後、まんまと話に首を突っ込んでおりました。(その為に来たのですから当然ですが)
色々な要望や希望・コストをお聞きし、「取り敢えず1案考えてみます」ということで、その場をあとにしましたが、正直相当難しい事を要求されているのは火を見るより明らかでした。
当初の要望希望は1階がけいこ場 中2階に小屋裏収納と調整室があり、2階が劇団事務所と住居。 3階が倉庫という鉄骨造3階建てという内容。
それを何とか1か月で基本設計をまとめて会議に提出。希望をお聞きして設計変更。この繰り返しが数ヶ月続き、最終的に25ものプランを提出したのでした。そして承認を受けたver.25を基に実施設計に入り・構造計算を終わらせ見積を数社の施工業者からとってはみたものの、なかなか委員会の希望に添うような金額の見積がでない。
仕方なく、設計変更を行い、少しでも贅沢と思える材料、設備は削っていき、素うどんのような建物にシェイプアップしていったのだが、折しも北京オリンピック建設特需のあおりを受け、鉄の高騰で二進も三進もいかなくなってしまった。
新けいこ場  そんな、八方ふさがりの中、佐藤さんの口からついに恐れていた言葉が「鉄骨3階建て断念。計画を一から見直し身の丈にあったけいこ場を再度計画する」。
その内容は、鉄骨を木造に、3階を2階に、住居は外に出し、倉庫は縮小、というもの。
 当然、今までの設計も図面も(苦労も)全て白紙。しかも時間が迫ってきている。ともかく、要望を整理し、満足するデザインをしなくてはならない。
 木造2階建てで、けいこ場という大空間をつくるためには、普通の木構造の考え方とは違い、特別な集成材を使うか、木トラス工法を使うことによりはじめて大架構を可能になります。
普通の住宅だと柱間は2間(3.64m)を飛ばすのが最大というのが一般的な常識ですが、今回の新けいこ場はなんと平面で7.6m×9.2mもあります。このような大空間を得るために、120o×390oという大きな集成梁を6本も使って実現しています。
また、室内高さも最大で4.25mもあります。高いと言うことは風の圧力を受けて建物が歪みます。 太い柱使えば良いのですが、そうしていくとコストがかさんでしまい、木造にした意味がなくなってしまいます。
その他にもバリアフリー化するために、床を地面ギリギリに低くする工夫など、鉄骨から木造に変わった為、考え、検討しなくてはならない部分がたくさんありましたが、それを一つ一つ解決し、理想に近づける。そういう地道な作業を繰り返し、新けいこ場は作られていったのです。 
新けいこ場

今回、劇団ひの「新けいこ場」を設計する機会を得て、とても、貴重な経験をさせて頂きました。そして多くの方との出会いもありました。
 こういう貴重が設計を任せて頂いた劇団の皆様、有形無形にご協力頂いた皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。

また、地元日野で設計の仕事に携わっておりますので、何かありましたらお気軽にお声をかけてください。 業務範囲は住宅からけいこ場まで
ネクサス建築研究所 小林 將夫
http://homepage2.nifty.com/NEXUS/