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今月のクローズアップ
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[2009年5月]
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宮庄 宏明さん
劇団ひのと私

劇団ひのの公式カメラマンをここ13年ほどさせて頂いている宮庄です。

今回、ありがたいことに声を掛けて頂いたので、私のことを余りご存じない方に向けて自己紹介させて頂きます。

私と劇団との関わりで言うと3段階あります。



1.役者時代

私は元々、とあるカメラメーカーでカメラの開発の仕事をしており、毎日帰りが遅く、とても芝居などやる時間のない生活を送っていました。しかし、珍しく半年ほど暇な谷間の時期があり、その間に家の近所で見つけた「銀河鉄道の夜」のポスター(榊原さんの印象的な絵でした)に目を惹かれ、日野市民会館に足を向けました。
人生で初めて見る芝居でした。しかし、とてもアマチュアとは思えないレベルの高い演技で、特に主役のジョバンニを演じていた奥住さんの周りだけ、空気の色が明らかに違っていました。それほど圧倒的な存在感を見せていました。
また、お母さん役の高橋由美さんを見て、「世の中にはこんなきれいな人がいるんだなあ」と思いました。卓ちゃんの教師や鳥取りも強烈でした。
さらには受付にいたのが、当時私が所属してた日野青少年オーケストラの団員(会ったことはなかった)だった中村ルツ子さんで、彼女の後押しもあって、入団することをその場で決めてしまいました。32歳の夏でした。

その日は最終日で打ち上げがあるから、と佐藤さんに誘われ、ずうずうしく参加、奥住さんに芝居の話を色々と聞かせてもらいました。主役を張るだけの人の話は奥が深く、とても有意義な時間でした。
この日から私の劇団生活が始まりました。

そもそもなぜ芝居をやりたいと思ったかと言うといくつか理由があります。
・芝居という行為がどんな感じのものなのかを一度経験してみたかった
・声色を使い分けて芝居掛かったしゃべりをするのが得意だった(と思っていた)ので、それを生かせると思った
・テレビで若手俳優の演技を見ていて、「これなら自分の方が自然にしゃべれる」と根拠のない自信をもっていた
・新しい出会いを求めていた(結婚相手を探すのに、職場以外の活動の場が必要だった)
などだったと思います。

しかし、最初の芝居にもかかわらず、男性団員の少なさから主役級の台詞数(200以上ありました)の役を当てられ、唯一(?)の弱点である記憶力の悪さに苦しむことになります。結局台詞が覚えきれず、(そのせいだと思いますが)私の出る場面をかなりカットされてしまいました。

役者としては「分からない国」と、急遽やることになった「オズの魔法使い」の端役だけで、役者とは何ぞやが分かる前に大根役者のまま引退しました。

しかし、連日のように劇団に通い、稽古の後は夜中まで酒を飲みながら仲間たちと語り合った濃密な日々は、30歳を過ぎてから遅れてやってきた青春として、私の宝物のような思い出となっています。

演出の佐藤さんはとても人情味のある方で、誰かから助けを求められると断ることをしないので、他の団体の裏方の仕事をずいぶんと手伝いました。その中のひとつで、ミュージカル「ライオンと魔女」の裏方を劇団が担当した浅川少年少女合唱団との素敵な出会いもありました。その後、何度となく浅川の練習に通い、子供たちの真剣な表情を作品として写真に収めました。

2.裏方時代

実は余り記憶がはっきりしないのですが、仕事が忙しくなり、役者は続けられないが劇団とは関わって行きたかったので、記録写真や道具作り、歌とダンスのレッスンのためにちょくちょく顔を出していたと思います。
オズの魔法使いのときに作った「サウンドトラック」(芝居ではこうは呼ばないのでしょうが)と銘打った劇用音楽のカセットテープ(懐かしいですね)を作って販売したこと、「ラブレター」のときに苦労して作ったポスト(円筒形の大きなやつです)が特に印象に残っています。35歳の結婚を機に退団したと思います。
結婚のお祝いパーティーを(無理矢理お願いして)開いて頂き、卓ちゃんと由美ちゃんに2人の出会いをネタにしたショートコント(?)をやって頂いたのは最高に嬉しかったし楽しかったですね。

3.カメラマン時代(現在)

劇団をやめてからは、もっぱらカメラマンとしておつき合いさせて頂いています。
正確には「オズ」から撮っているので13年ほどになります。

私は大学時代に写真を始めて、ずっと趣味で撮り続けていました。
子供の写真がメインで、それを含めて人物全般が大好きです。大学時代は近所のフォトジェニックな女の子や姉が講師を務めるヤマハ音楽教室の子供などを撮っていました。
カメラをいじるのが好きだったので、とにかく機会があれば何でも撮っていました。必然的に記録写真が多くなりました。
会社に入ってからは職場の運動会、飲み会、カラオケなど。女性ポートレートも撮っていましたが、機会が多いのは圧倒的に記録写真でした。
なので、劇団員時代も、練習の合間などに記録写真を撮っていました。
私としては、下手くそな芝居をしているより、記録写真を撮っていた方が役に立てている気がしていますので、芝居を一応経験したことを強みに、今後も芝居を撮り続けようと思っています。佐藤さんに声を掛けて頂ける限りは。

私は芝居の他にも、所属していたオーケストラの記録写真も10年以上撮っています。

オーケストラは本番では一般的に表情がなく面白味が少ないので練習をメインに、いい表情や動きがあったときを狙っていますが、芝居は表情が豊かなので、本番も(本番こそ)撮っていてその点は楽しいです。
私が撮りたくなるのは、
・表情が豊かな役者さん
・動きやダンスのきれいな役者さん
・笑えるシーン
・絵として美しいシーン(構図、色など)
などです。

私は写真を撮るに当たって、例えば女性にポーズを取らせて形をきれいに、といった撮り方は好きでなく、何かに一生懸命取り組んでいる姿をそのまま切り取るドキュメンタリー写真が好きです。
芝居であれば役者が役に完全に入り込んで、本当の感情が出たような表情を撮りたいと思います。そんなシーンをアップで撮るのが何より好きです。だからシリアスで理解しやすいものほどいいです。一方で「スナフキンの手紙」のようなはちゃめちゃコメディーも大好きですが(スナフキンの手紙は劇団ひのの好きな芝居3本に入ります)。

そんな私の永遠の夢は、「写真を撮って生活すること」です。形はなんでもいいのですが、毎日好きな写真を撮ることだけに時間を使えれば、こんな幸せなことはないかなと。
そんなことを夢見ながら、1年前から担当しているストックフォトの仕事で写真家の方達と接しています。何かいいことが起きないかなと。他力本願ですが。

最後に、私の遅れてきた青春時代を過ごした劇団ひのは、私にとっては仕事だけでは得られない数多くの経験と仲間を与えてくれた貴重な場所であり、そんな劇団への感謝の気持ちは一生消えることはありません。記録写真は劇団への恩返しだと思っていつも取り組ませて頂いています。

芝居以外でも写真撮影のご用命があればぜひ声を掛けて下さい。時間が許す限りやらせて頂きます。