原作者=エリナー・ファージョンについて


「銀のシギ」とは

演出/さとう としかつ

 「銀のシギ」は、上演したかった作品の一つでした。以前にも候補作品となったのですが、著作権の問題で上演ができませんでした。この度、やっと許可を得ることが出来ました。いつどこで、この作品と出会ったのか定かではないのですが、まるで劇のように展開していく物語にグイグイと引き込まれた印象深い作品でした。
 エリナー・ファージョンは、「ムギと王様」でカーネギー賞、第一回国際アンデルセン賞を受賞した著名な作家です。彼女の作品は、心を動かし、わくわくさせて、別世界にいざなうための、きらめく、ドラマの火をたっぷり持っています。
 その代表作の「銀のシギ」は、イギリスの昔話「トム・ティット・トット」を元にしたものです。『名前には魔力がある、鬼や悪魔も本当の名前を知られてしまうと力を失う』という、イギリスでは広く伝わっている内容のお話です。私は、悪の知恵をひねり出して悪巧みをする鬼を強調するために「魔の森のなぞかけ鬼と銀のシギ」と、題名をあらためました。日本には「大工と鬼六」という昔話がありますが、これも名前をあてられた鬼が退治されるお話です。筋が似ているのに驚かされます。
 ファージョンは、この「トム・ティット・トット」のお話の中に、「銀のシギ」「月の男」の伝説や、二つの性格を持った子どもっぽい王様・乳母・ユニークな召使など、大勢の登場人物を織り込んで、にぎやかに、ユーモラスに描いています。「鬼」「シギ」「月の男」などのお話が、糸を紡ぐように絡みあいながら、不思議な色合いをもって展開していきます。これらが気品のあるファンタジーを創り上げているのです。
 この作品はまた、主人公のドルとポルの成長のドラマでもあります。姉のドルは怠け者でかなわぬ夢ばかりみている娘。妹のポルは好奇心旺盛な知りたがり屋の少女。しかし、ドルは愛情深い母親に、ポルは家族を助けるために危険な魔の森に飛び込んでいく果敢な少女に成長します。その行動力は、危機的な状況から間一髪で皆を救い出すというクライマックスをむかえます。そこには、不正に対してシャンとして挑む、愛情と思いやりに裏打ちされた勇気が映し出されているのです。その場面は実にスリリングで感動的です。その感動を味わって頂きたいと思い、日夜けいこに励んでいます。
 『子どもたちは、喜びや楽しみのともなった言葉を求めています。それも、人の体をくぐりぬけた肉声によって語られる時、聞き手の子ども達の心に素直に受け入れられる』のです。『物語の世界で、主人公が辿る出来事をまるでわがことのように共に体験して楽しみ、さまざまな他者の物語を体の中に取り込んで、心の糧にしながら、自分の物語を生きていくといわれて』います。「銀のシギ」は、まさに打ってつけの物語です。私はこの観点を大切にし、生の語りによる共有性を生かし、楽しいお芝居を丁寧に創り上げたいと思っています。その為にも、魅力的で面白くなれるように、皆で創意工夫をこらしています。

 2人の小学生、2人の中学生、2人の大学生、12人の大人達(20〜72才)・・・の俳優と、劇団「ひの」のスタッフが織りなす、「銀のシギ」にご期待下さい。

原作者=エリナー・ファージョンについて




演出より「銀のシギ」とは


 エリナー・ファージョンについて

 エリナー・ファージョンは1881年、イギリスで生まれた。
 父親はユダヤ系イギリス人で正規の学校教育を受けない自学自習の人であったが、当時、ベン・ファージョンは作家として成功をおさめていた。母親のマーガレットは、当時アメリカの演劇史に名優としてその名をとどめているジョーゼフ・ジェファーソンの娘で、朗らかな性質と豊かな音楽的才能の持主でした。ファージョン家は、作家や詩人、あるいは演劇関係の人々の出入りがたえませんでした。彼女は、こうした家庭で、芸術的な刺激を豊かに受けて育ちました。エリナーは父親と同じように学校教育はうけませんでした。「私は一度も学ぶ方法を、人から学んだことはありません。自分以外の人間の思考過程に従わなければならないなんてとても耐えられないことだったのです」とエリナーは後年のべている。学校には行かなかったが、詩や物語を書き、その年令をはるかに超えたレベルの本を熱心に読みふけった。
 修業時代のファージョンは、雑誌の記事、物語、詩などを書いていた。物語作家としての地位を確立したのは40歳の時に出した「リンゴ畑のマーティン・ピピン」であった。そして1930年代から40年代にかけては、使い切れないほど豊かなアイディアに恵まれ彼女独特の流れるようなことばと形の整った作品を次つぎと生み出し、最も自在にその才能をふるった。
 1955年、自選の短編集「本の小部屋」(日本語版では「ムギと王さま」)で、イギリスのカーネギー賞、第一回国際アンデルセン賞を受賞した。高齢になるまで活動を続けたファージョンは、1965年、82歳でなくなりまた。(「ムギと王さま」:岩波書店、「エリナー・ファージョン-その人と作品」:新読書社)



 ファージョンとその作品

 エリナー・ファージョンの作品は、「銀の砂と雪」などの詩、「ガラスの靴」などの劇、「十人の聖者」などの伝記、そして、「リンゴ畑のマーティン・ピピン」などの物語と、いろいろなジャンルにわたっている。 エリナーの作品世界の特徴の一つは、何気ない現実世界の場面を次つぎと重ねて、独特の虚構の世界(ファンタジー)を構成してゆくという手法にある。
 彼女の物語には、現実の生活も想像の生活もそのまま描かれているので、そこには悲しみやペーソスもある。しかし、同時にまた、それに負けないほどの喜びもかかれている。それは美しい人生や世の中に歓声をあげ、歌い出すような喜びである。彼女は、人間の持つ本質的な優しさを信じることで、子どもたちが幼いうちから夢を失うことのないように、防波堤の役割を果している。
 「銀のシギ」は、イギリスの民話「トム・ティット・トット」をもとにしたお話ですが、ファージョンの場合、伝承歌や昔話がごく自然に創造の出発点になり、彼女の体内を通り抜けると、これらの話は、まったく新しい意味と生命をもって生き返ってくる。ファージョンの思想の根底のものは、生と愛情の肯定である。それをファージョンは、子どもに分かる世界に置き換えて物語っている。(銀のシギ:岩波書店、エリナー・ファージョンその人と作品:新読書社、町角のジム:学習研究社)

演出より「銀のシギ」とは