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劇団「ひの」 88回公演

第三帝国の恐怖と貧困

演出より
今、戦争前夜に似通っていると幅広い分野の方々からの訴えを耳にします。政治や世の中の動きに危機を感じる中、ファシズムを学び、表現し、訴えたかったので、「第三帝国の恐怖と貧困」を選びました。ブレヒトの作品を自分たちにどうできるのか、どうなるのか不安もありましたが、思い切って取り組む事にしました。この作品では、ヒトラーが首相になった1933年から、第二次世界大戦が始まった前年の1938年、ドイツがオーストリアを併合するまでの5年間が描かれています。日本では、国際連盟脱退、小林多喜二虐殺から、日中戦争開始、国家総動員法が成立した時期までとなります。

1933年、ヒトラーの陰謀で国会炎上放火事件が起きた翌日、身の危険を感じたブレヒトは、ユダヤ人の妻と長男とともに、デンマークに亡命、1939年にスウェーデン、1941年にはアメリカに移住します。ドイツから亡命してくる目撃者の報告や新聞記事をもとに、ナチス支配下にある様々な地域・階層・階級のドイツ民衆の日常生活をオムニバスで描き、ファシズムを告発したドラマです。とだけ言うと、重苦しい感じがしますが、決してそうではなく、あまりの異常さが狂気をうみだし、時には笑いを誘うコント風の手法で描かれています。

「第三帝国」とは、神聖ローマ帝国、第二帝政(ビスマルク帝国)に続く、第三番目のライヒ(ドイツ国)という意味で、1933年9月、ヒトラーがこれを国家の呼称として採用。彼は、千年続くと豪語していました。「恐怖」は、ファシズム体制での圧制や暴力、ユダヤ人差別や収容所での残虐など。「貧困」は、貧乏、生活苦などがイメージされますが、この作品は、ファシズム体制になっていく過程、ファシズム体制になってしまった中での、人間として生き方や思想・人間性としての「恐怖」や「貧困」として捉えています。もちろん独裁者ヒトラーの問題もありますが、それを生みだし助長させてしまった事への問いでもあります。そのためにも、ファシズムを過去のどこかで起こった事として外から眺めるのではなく、もし自分がその世界に生きていたら何を考えどう行動したか、演劇という方法で描き、現代と照らし合わせたいと思っています。

新たに5人のメンバーが加わりました。「闇に咲く花」で友情出演していただいた岡部政明様に幸いにもナレーションの協力を得る事ができました。全24作の中から、12作品を選びました。15人の役者が、2役から4役までを演じ、45役に挑みます。装置・衣裳・小道具等は、ほぼ完成しました。残る3週間、これからが創造を深め高める正念場です。ブレヒトに相応しい劇場空間も用意しました。劇団「ひの」がはじめてお届けするブレヒトの上演に、ご期待ください。

みな様のご来場を心からお待ちしております。